第47回 全国国保地域医療学会  2007年10月26・27日

金沢歌劇座 & 金沢21世紀美術館

 地域に新しい架け橋を 医療に新しい息吹を

 全国から国保関係者が集まり、互いの自治体や国保診療施設での活動を発表し合いました。1000人以上集まったでしょう。この学会のいいところは、まじめに地域医療について話し合えること。

 医療制度改革や市町村合併という大きな変化に直面し、国保直診を取り巻く環境は、きわめて厳しい状況です。それぞれの地域特性をふまえてた地域包括ケアシステムの構築を進めていく必要があり、地域住民が生まれてから一生を通じて安心して住める地域づくりに貢献することが私たちの役割であると、再認識しました。(・・・国診協 会長 冨永芳徳先生<滋賀県 公立甲賀病院長> の挨拶文より一部引用しました)

 今回、お会いして話ができたのは、同級生では、中村伸一先生(福井県 名田庄診療所長)、三浦源太先生(大分県 姫島診療所長)、後藤忠雄先生(岐阜県 和良病院長)、川妻史明先生(長野県 浅科診療所長)などの面々。どなたも日本の地域医療のリーダーになっています。
 
 同窓生では、奥野正孝先生(三重県 神島診療所長)、佐藤勝先生(岡山県 哲西診療所長)、中圭介先生(岡山県 哲西診療所)、新鞍誠先生(香川県 財田診療所長)、花戸貴司先生(滋賀県 永源寺診療所長)、矢澤武史先生(滋賀県 信楽中央病院)などと話ができました。


 自治医大同窓生以外にも、いろんな先生や看護師さん、国保連合会の方々と話をすることができ、全国でのみんなのがんばっている姿や情報を交換することができました。夜には、地元金沢の開業医 上川先生夫妻を交えて、盛り上がりました。医者は早朝から深夜まで患者さんのために働いていますし、私利を肥やしたりしていません。それが常識のはずなのに、マスコミに医師像を操作されるのがたまらない。お互いに健康を気遣いつつ(という割には飲ませすぎた、飲み過ぎた)、また地域に帰って住民のために働くことを誓いました。深夜には、岡山県哲西診療所の佐藤先生、中先生、戸田保健師と合流し、研修医や学生さんへの研修のあり方について熱く語りました。

第7会場ポスターセッションで発表する中村先生と、聴衆の方々

中村先生は、この1年半での苦労話を、

畑野は、公設民営による地域包括ケアについて、

水上看護師は、4つの国保診療所をもつ苦労話を、

3人連続24分間、いぶきの話でした。


中村伸一先生(福井県 名田庄診療所長)

後藤忠雄先生(岐阜県 和良病院長)

2日目の特別講演
『今、日本の何を変えなければならないのか』
蟹瀬誠一氏(国際ジャーナリスト)

シンポジウム『元気な国保直診を目指して』
前沢氏(北海道大学)、大原氏(香川県陶病院長)
宮谷氏(石川県富来病院長)、津向氏(福井県)
二川氏(厚生労働省)、渡邊氏(日経新聞)ほか

演者のスライド引用

国保の活性化のために

地域を守る強い意志

『地域そのものを支える』ことに同感

川妻先生と。飲み過ぎて眼が開かないし、
なんとなく会話にも力が入らない私ら

上川医院を訪問。すばらしい建物です。

古い良さを残しながら、最新の設備を整えた医院
とてもよく考えて作られています。

患者さんに聞きましたが、とても満足とのことでした。
信頼されていらっしゃる様子がよくわかりました
記述や写真に関して、不愉快になるようでしたら、ご連絡ください。自分が元気になれ、また逆に周囲に元気を与えることができるこのような機会はあまりありません。学会でも、『できるだけ地域医療の現場から情報発信しよう』との発言が多数みられました。医療関係者だけの自己満足ではなく、地域住民の方にもどんどん情報を発信し、住民と一緒に地域の医療を守っていきたいと思いました。

2002年の国保医学会
2006 滋賀県国保地域医療学会
2005 全国国保医学会
2004 滋賀県国保地域医療学会
2004 奈良総合診療研究会
2003 滋賀県国保地域医療学会


地域包括ケアセンターいぶきの目指すもの
ー公設民営化2年目ー


◆目的

地域包括ケアシステムの実践が、「公設民営」方式で可能かどうか? 

◆経過
平成18年4月に、旧伊吹町の2つの国保診療所(出張所を合わせると4つ)を、継続しながら、公設民営で、医療福祉複合施設を立ち上げた。施設は米原市によるもので、社団法人地域医療振興協会が指定管理者となって、運営を行うものである。施設内には、診療所(無床)、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、リハビリテーション、デイケア(20床)、老健(60床、うちショートステイ10床)があり、地域に散在した4つの国保直診を継続している。
国保ならではの、利益追求ではない「地域包括ケア」が、民営で継続可能であるのか? 県内の医療機関施設長(=全国国診協会長)から疑問視された。

◆方法
開設1年半経過した現在、これまでに直面した問題を挙げ、解決に向けての手法が、公務員時代と比べてどのように違うかを、検討してみる。

◆結果1 問題点
経営ができないと継続できないこと(初年度の赤字は市から補填していただいたが、2年目からは無理)。
保健との連携が困難になったこと(直診医師ではないので、市との距離が遠くなり、保健師と一緒に活動することがなくなった)。
市町村合併のために、首長や行政との距離が遠くなったこと。

◆結果2 運営状況@ 

グラフにここ1年半の利用者数の推移を示す。平成18年4月は、従来の診療所にくる患者数と同じ1日60数名であったが、5月より医師4名となり、老健施設、デイケアを稼働したため、徐々に患者数、利用者数も増加した。平成19年5月には医師が2名に減少したが、9月より医師2.5名となっている。平成19年9月現在、1日患者数は104名、老健入所者は1日53名、デイケア利用者は1日15人となっている。

運営状況A 

市からの補填のない事業利益の推移を示す。平成18年4月にオープンし、いきなり3000万円のマイナスから始まることとなった。5月より老健などが運用を開始し、8月にようやく黒字化することができた。診療所部門ははじめから黒字であったが、老健部門は入所者が60床のうち50床を越えないとマイナスになってしまう。平成19年4月には、近くに民間の特老が開設し、当方から多くの入所者が減少した。5月には医師が2名抜けたものの、影響は少なく、5月以降は100〜200万円の安定した黒字化ができている。


◆結果3 @経営方法
公務員時代は次年度予算を組むことが仕事で、年単位のアクションとなる。人の採用も市や議会の了解が必要で困難きわまりなかった。
一方、民間では、毎月収支勘定が出ることとなった。そのため、どのような対策を取ると収支にどう響くか、すぐに判明することとなった。月ベースの実績を元に、看護師や介護士を採用することができた(決めたら数日後に募集できる)。
スタッフには、「これだけクリアしてもらえれば採算が合う、給料が払える」という目標を提示した。たとえば老健入所を50床/60床=83%以上にしてください。

◆結果4 A保健事業
市の保健師が中央に吸い取られ、周辺地域の保健師がいなくなった。このため、一緒に保健活動することがなくなった。
行政に頼らない保健事業をするため、独自にサロンや民生委員会議、老人会に出かけて、健康教室を行った。
市の保健師を地域につけていただく代わりに、給料の一部を当方が持つという提案をしたが、行政からは未だに返事がない。

◆結果5 B行政への働きかけ
市長・副市長に面談を申し込み、地域包括ケアについて説明できる場をいただいた。
市議会議員を対象に健康教室をさせていただき、地域包括ケアについて説明できる場をいただいた。旧4町が合併すする前からの計画だったため、この施設のことを知らない議員も多く、初めてケアセンターいぶきのことを知ったという人もあった。

◆公設民営のメリット
スタッフに、経営を意識して仕事をしてもらえる(黒字にしないと給料が払えない)。
年度末の黒字の一部(2割)を特別賞与にできること(やる気を引き出す)。
能力主義の人事考課制度を意識してもらえたこと(スキルアップ・働かないと給料は上がらない)。

◆民間が地域包括ケアを実践するために

経営とは関係のない目標を作ってもらうことにした。
 老健なら、在宅復帰7割を目指す(現状6割)。外来なら、地域に密着したサービスを。
スタッフが同じ方向を向いて運営するために、理念を明確にした。
 「地域包括ケアの実践」、「在宅支援とリハビリ」に特化、「地域循環型老健」

◆考察1
公設民営の国保関連施設は全国でもあまりないため、「地域包括ケアセンターいぶき」のやり方が、全国のテストケースになると考えられる。
市町村合併によりコスト意識を求められる時代になり、指定管理者制度(公設民営)による方法が模索されている。
減価償却費を持たないこの方法は運営面では可能である。

◆考察2
今後、「住民が健康になった」「医療費が下がった」などのデータを出すことができれば、公設民営方式による地域包括ケアが可能であることが証明できると考えられる。
データが出すことができなくても、「市のお荷物」から、「市の誇り」になるような取り組みをしていく。