◆老人保健施設における在宅復帰と地域支援への挑戦

2009.7.23〜24 全国老健大会 (in 新潟)  にて発表

ケアセンターいぶき介護老人保健施設
施設長  中村 泰之


中村先生(中央)

 
◆目的
 当施設は、開設からなんとか3年がたちました。当施設の理念である「在宅復帰と地域支援」を実践するために、開設当初から最長入所を3ヶ月までとし例外なく運営してきました。

 また、「地域支援」という理念を達成するために、開設当初ショートスティの枠が60床中10床であったものを平成20年10月より30床に変更しました。変更後、平成21年4月現在1ヶ月間に30床の枠を120名前後の利用状況となっており、地域の方々が、在宅にて介護、看護をして暮らして頂くことに協力しています。

 「在宅復帰と地域支援」をしていくためには、老人保健施設だけでなく、医療機関、訪問看護、訪問介護、デーサービス、ケアマネージャー等各施設機関との連携も重要であり、これを密にすることにより、利用者及び家族によりよい在宅生活をおくって頂けると思っております。

 今回、開設3年間の苦悩と経過について発表させて頂きます。


@最長入所3ヶ月を守るための苦悩

 やはり、家に帰るという事への不安感から延長などを求められたり、場合にっては怒りをぶつける方がおられました。
 しかし、利用者さん1人1人に丁寧に対応させていただき、家に帰るための準備(往診、訪問看護の実施、デーサービス、各種サービスとの連絡)を進めて、実践することにより信用を獲得していきました。


A在宅復帰のため胃瘻から経口へ

症例:82歳 男性  脳梗塞後遺症、外傷性脳出血
病歴:転倒し受傷。病院入院し保存的治療するも嚥下障害があり、胃瘻造設となった。
経過:ご自宅では娘さん夫婦が隣に住んでおられるが、昼間は仕事があるため1人で生活しなければならないため、老健にて立位歩行訓練と嚥下訓練を施行。これにより、胃瘻から完全に経口摂取へ移行できた。
現在:食事も自力にて全量摂取可能、手すりにつかまって自力でトイレにも行っている。往診、ショートスティ、訪問看護、訪問介護、デーサービス等の利用より在宅生活中


B施設で行った行事

  ゴンドラで伊吹山3合目に行こう
   ・平均介護度: 3.1    
   ・平均年齢:  89歳
   ・男性利用者 5名 女性利用者 7名 計12名
   ・車椅子利用者9名 独歩3名

  福井県あわら温泉一泊旅行
    ・平均介護度: 3.25
    ・平均年齢: 86.9歳   最高齢101歳
    ・男性利用者 3名 女性利用者 9名 計12名
    ・車椅子利用者9名 老人車利用者2名 独歩1名


C夢をかなえる看取り

利用者の夢をかなえる
目的
 独居の末期がん入所者の「最後は家に帰りたい。」という希望をかなえる。
利用者:N氏、女性、87歳
 現病名:上行結腸癌術後、多発性肝転移、認知症
 経過:平成○年9月21日腸閉塞にて入院。
     同年10月5日手術。その後、ショートステイ利用
     翌年1月14日〜4月21日 老健入所
     5月1日〜5月15日と5月25日〜6月22日ショートスティ
     6月22日自宅にて永眠

 平成○年4月には転移性肝癌は大きいもので12.6cmの大きさになり、腹水も貯留。貧血もHb 7.8g/dlと進行。認知症の進行により、痛みや倦怠感等の訴えもすぐ忘れてしまわれる状態。しかし、本人は「(一人暮らしで住み慣れた)家に帰りたい」と希望された。
 予後1週間以内と思われる6月22日小雨の中、医師とご家族とでストッチャーに乗せて自動車にて帰宅。 家に着くと息子さんも娘さんも近所の親も、みんなで出むかえ、「Nさん、家に帰ってきたよ」という呼びかけに「うん、うん、ありがとう」と反応。
 3時間後、大好きなコーヒーを一口飲んで、「あー、おいしい」と言われ、その5分後から意識がなくなり、みんなに囲まれて死亡された。


Dショート枠増床による苦悩

 開設当初ショートスティの枠が60床中10床であったものを平成20年10月より30床に変更した。変更後、平成21年4月現在1ヶ月間に30床の枠を120名前後の利用状況となり、1日の入退所者数が10〜15名になっています。

これにより、「退所者数増加による忘れ物の増加」、「相談員をはじめ全職員の業務の増加」、「利用者の状況・状態が把握できない」等の問題が発生。しかし、確実に「在宅支援」につながっています。


◆まとめ

現在ショートステイは、1ヶ月間に30床の枠を120名前後の利用状況となり、1日の入退所者数が10〜15名になっています。
老健ミドルステイ(3ヶ月間)の在宅復帰率は、89.8%(平成20年度)です。
特に、在宅復帰のために各機関と連携している米原市においては復帰率78.8%(過去3年間)で、市外の方の復帰率47.2%とかなりの差があり連携の成果がでています。
いろいろな経験をしながら3年間が過ぎました。まだまだ未熟な点が多くあり「在宅復帰と地域支援」を実践するため今後生かしていきたいと考えています。