全国国保地域医療学会 in 高知

2011.11.11-12

   
   
   
   
   
   
   
   

米原市の高齢者を支える方策

2011.11.12  全国国保地域医療学会 発表予定

   
◆はじめに
地域包括ケアセンターいぶきは、平成18年4月にオープンし、「地域包括ケアシステム」の実現に向けて取り組んできました。その主旨は、「住民が住み慣れた場所で安心して生活ができる」ことを目ざし、「保健と医療・福祉・介護の連携」にて実現する包括的な医療・ケアです。

当施設は、出張所含む5つの診療所と、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、リハビリテーション、デイケア、老健を併せた医療・福祉施設です。特徴としては、「地域支援とリハビリ」を理念に在宅医療・ケアの実践に力を入れてきました。特に老健60床のうち、ショートステイを30床とし、1ヶ月に300人以上の入退所を行っています。
   
◆目的
 今回私たちは、これからの5〜10年に向けて、どのような舵取りをしていけばいいのか、医療サービス、介護サービスでどのような部門を充実させていけば、地域住民が安心して過ごしていけるのか、問題点を抽出し、分析したいと考えました。

◆方法
 米原市が平成23年2月に施行した3つのアンケートを参考に、住民の望んでいること、不足するサービスなどを抽出しました。具体的には、@自宅で過ごしている要支援・要介護認定高齢者を対象にした調査、A特老や老健など介護保険施設に入所している高齢者を対象とした調査、B米原市内のケアマネージャーを対象にした調査です。アンケートは全数調査で、郵送調査法により行いました。回収率はおおおむね6割です。

   
◆結果
まず米原市の高齢者数の推移についてご報告します。米原市は人口4万人、高齢化率 25%の街ですが、今後は人口は減少していきます。高齢化率は上昇しますが、高齢者の絶対数は変わらないと予想されています。

◆次に、自宅死亡割合についてご報告します。保健所の協力を得て滋賀県内の保健所管内別自宅死亡割合をグラフにしてみました。滋賀県は全国都道府県の中でも5番目に自宅死亡割合が高いとされています。保健所管内では長浜保健所が21.2%と最も高くなっていました。中でも米原市内の伊吹地域で33.7%, 山東地域で 29.7%と突出して高く、「自宅で最期まで過ごしたいという希望の人は可能にできる」在宅看取りの文化ができつつあると考えられます。
同じ米原市内でも、米原地域、近江地域では、何かあったら病院という地域柄もあるようです。このように市内でも地域性があり、それぞれの地域に合わせたサービスの調整が必要かと考えられます。

   
◆自宅で過ごす要支援・要介護者へのアンケートでは、「これからの生活をどのように送りたいですか
」という質問に対して、「自宅で家族以外の世話にならずに過ごしたい」、「自宅で訪問介護や通所介護などを利用しながら暮らしたい」と回答する人が7割を占めていました。できるだけ住み慣れた地域で最期まで過ごしたいという人が多く、在宅医療・福祉サービスの充実が求められていると考えられます。

◆次に、入所中の要介護高齢者へのアンケートで、「今後どこで介護を受けたいですか」という質問に対して、8割の人が「現在の施設」、1割の人が「他の施設」と回答しており、自宅に帰りたいという人は4%でした。入所すると介護への安心もあり自宅に帰りたいという人は少ないようです。ただ現実的には施設への入所数には限度があり、全ての利用者が入所できるわけではありません。

   
◆ケアマネージャーを対象にした調査で、「日頃から医療との連携をとっていますか」という質問に対しては、6割のケアマネが連携がとれていると回答しています。「どちらともいえない」と答えたケアマネのうち、その理由を尋ねると、「医師の介護保険制度に対する理解が少ない」、「医師の理解が得られない」と回答した人も多く、私たち医師への不満がありました。医師側も介護保険に対する理解を深める必要があり、またケアマネと医師が話し合える場所を持つことが大切と考えられます。また、研修医研修を通して、病院では介護保険制度について学ぶことがほとんどなく、1ヶ月間の地域研修で「介護保険について初めて知った」という研修医がたくさんいました。研修医が介護保険について学ぶようなプログラムが是非必要だと考えられました。

◆ケアマネと市の地域包括支援センターとの連携についての質問ですが、「連携がとれている」と回答したのは6割で、2割が「どちらともいえない」、1割が「あまり連携はとれていない」と回答していました。そのうち連携がとれない理由は何ですかと聞いていますが、「相談しても解決しないから」、「忙しそうだから」、「相談することがない」などが挙げられていました。
地域包括支援センターの職員が、業務に追われて、「地域包括ケア」のリーダー役に回りきれないのではないかと考えられ、職員配置の加配や、社協など地域に密着した組織が分担した方がいいのではないかと考えられます。

   
◆このことは、「要介護の高齢者が、誰に相談していますか」という質問で、市の地域包括支援センターに相談する人がわずかであることからも推察されます。

◆ケアマネージャーを対象にした質問で、「不足しているサービスはなんですか」という問いに対して、「ショートステイ」、「訪問リハビリテーション」、「通所リハビリテーション」という回答が上位を占めていました。在宅生活を支援していくために、ショートステイやリハビリの存在はまだまだニーズがあると考えられます。

   
   
◆まとめ
@以上の結果を踏まえ、米原市の今後の課題として、在宅で暮らしたいと考える人は多く、住民を支えるために医療スタッフと福祉介護スタッフという多職種の連携が必要であると考えられます。特に医療面で支える医師と生活面で支えるケアマネの連携が必要で、顔の見える関係づくりが大切であると考えられます。

A介護保険制度について学ぶ機会が病院では少なく、福祉介護現場との連携を阻害しているようです。診療所での地域医療研修などを通じて、介護保険制度を理解した若手医師の育成が大切です。

B市の地域包括支援センターは、その業務で疲弊しており、地域包括ケアシステムの牽引役としては十分に機能していない現実があります。社会福祉協議会など地域密着型の事業所が、サテライトとして地域包括支援センター機能を担ってもいいのではないかと考えられます。

C地域住民が住み慣れた地域で安心して過ごすことができるように、家族のレスパイトもありショートステイの充実が望まれます。ケアセンターいぶき以外の他施設の事業所においても、ショート枠の拡充が望ましいと考えられ、他施設との調整を図っていきたいと思います。

Dケアセンターいぶきに現在6名のリハスタッフがおり、訪問リハ、通所リハ、医療のリハ、老健のリハなどで活躍してもらっていますが、リハビリへのニーズはまだまだ多く、今後リハスタッフの拡充で対応していきたいと考えています。

◆以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうございました。発表に当たり資料を提供いただいた長浜保健所、米原市役所に御礼申し上げます。