高齢者の終末期の医療やケアのあり方を再度考える

2016.1.31

日本老年医学会の表明文

 外来や在宅医療の現場で、また老健施設の中で、高齢者にどのように過ごしてもらい、最期のあり方について、どのように考えていけばいいのか? 患者さんの「生命の質」を考えた医療やケアをしたいと思いますが、今現状で行っている医療やケアはこれでいいのか? 常に疑問に思いながらの毎日です。
 例えば、食事ができなくなった人に行う点滴はいいのか悪いのか? 胃瘻を作ることを勧めるべきか否か? 2012年に出された老年医学会の立場表明から4年経過し、改めて見直したいと思いました。

 食べられなくなって死が近い時期になったとき、私たちは食べることが継続できるよう、口腔内のケアに配慮し、食事の形態を嚥下しやすいものにし、ご本人の意思を尊重して食べてもらうように専念します。精一杯の食支援のケアの結果として、それでも食べられないときに、ご本人やご家族の希望を尊重し、水分の補給としての点滴を希望されれば行います。点滴の希望がなければ、温かいケアを継続し自然な看取りを行います。胃瘻や高カロリー輸液についても、希望がある場合には、病院への紹介を行い施行していただきます。
 特に神経難病の人の場合は、ご本人の年齢が若いことが多く、ご本人やご家族の「生きたい」という希望を尊重します。

日本人の家族観や倫理観も時代とともに変わってきています。この立場表明が出て以来、医療従事者が患者や家族の方針を聞くことが増え、単なる延命処置はしなくなったのではないかと思います。私たちは、高齢者が衰弱しはじめた時点で、今後どのような経緯を経ていくかご家族に情報提供します。

『ご本人の苦痛がないこと』を最大限尊重した医療やケアを行いたいと思います。ご本人が安心な場所が自宅であれば自宅での生活が継続できるように、施設入所の人には施設が住みなれた場所になっているならその施設での生活が継続できるように。またご家族との共有の時間ができるだけとれるようにしたいと思います。痛みは極力ないように、鎮痛剤の使用を行います。生活環境の改善に努めます。

家族もまた、精神的・肉体的に疲れてしまうため、家族への配慮も積極的に行いたいと思います。あまりも別れの時間が短いと納得する時間が取れないため、ある程度の時間の確保が必要かと思いますし、逆算して医療者から家族に説明していく必要があります。亡くなった後からの家族への支援についても配慮が必要です。

経験を積んだ医師や看護師は看取りに慣れています。しかし医師や看護師だけでは、安楽な医療やケアの提供ができず、介護士やリハビリ職、ケアマネ、栄養士など多職種による医療・ケアが実施される時代となっています。カンファレンスや研修会を行って、ケアの質を高めていく必要があります。スタッフ自身も精神的な負担を感じることが多く、ふり返りや研修会を通じて成長していきます。

これまで医師をはじめ医療・介護にかかわるスタッフの終末期医療・ケアにかかわる教育が行われてきませんでした。急性期病院では、『死は敗北』と捉えられている時代がありましたので、「必ず死ぬ」人間に対して「人生」を考えた医療やケアを学習し、『死を肯定』できるように、『よい人生だった』と思えるような医療やケアをしていきたいと思います。一般社会の人に対しても、自分の生き方・死に方、家族の生き方・死に方について啓発していく必要があります。

立場表明は11までありますが、一般の人が了解しやすいはじめの6つについて説明しました。